カリフォルニアワインバー「ワイン蔵TOKYO」の移転に伴って実施した内装設計である。
常連客が多い店舗で、移転前の内装を継承するか否か、悩んだ。
店舗オーナーから、床は濃色系のフローリングとする要望があり、何種類かサンプルをとった中に、赤ワインを彷彿とさせる色のものがあった。非常に上品だが、同時に肉塊を切り落とした直後の、血が滴る断面のような生々しい、生命感の強さのような印象も受けた。
ワインバーなのでこれはいい色だろうと単純な発想でオーナーにお見せすると、大変気に入って頂き、使用を決定した。このフローリングがこのバーの空間を最初に具体化した。そしてカウンター、テーブル天板も同じ色で染めた。
ウォークインのワインセラーを設置する要望があった。壁一面を占めて、店のどこからでも見えていた旧店舗の見せ場だった。今回は床面積が前より減る上、平面上長い壁を使えない。そこでエレベータシャフト周りの壁にL字型に沿わせ、一人が作業できる最低限の奥行とした。これにより店のどこにいてもセラーが見える。ワインが並べられると、色とりどりのキャップシールがガラス越しに映え、素晴らしい演出効果となった。
旧店舗は窓が小さかった。それすらも非日常空間の演出のために内側から壁で覆われていた。一方、今回のビルは大きな開口部があった。それをすべて覆い隠す意味はないので、新店舗は旧店舗と違って外が見えることにした。しかし決していい景色ではないので、よい雰囲気を醸し出すカーテンを選び、襞を多めにとって垂らした。
細部も少し工夫した。トイレの鏡は所謂「女優ミラー」を洗練したものとしてデザインしたオリジナルで、光と鏡を一平面で違和感なくつなげる試みだった。
カウンター背後のワイングラスを並べる2枚の棚は両端のみ固定し壁から隙間をとり、中央は天井からのワイヤで垂れを防ぎ、下からの光で壁を照らすことで浮遊感を出そうとした。
また、EVホールのEPSを隠すため、壁全体をふかして新規建具を設置した。その建具引手をほぼ無いものとするため、通常建具には用いられない、チェーンを留めるための埋込フックを建具小口に付け、それに100円ショップで買ったジッパータブを通した。ボトル型の消火器スタンドはオーナーが最も好きな銘柄のラベルを模して制作したオリジナルである。
ワイン蔵TOKYOが長年培ってきたイメージを損ねずに、新しい空間を作れたのであれば幸いである。同時に前店舗のイメージを決して刷新するものではなく、常連客も違和感なく入り滞在できる店舗になれば嬉しい。