屋根・外壁改修を実施した、長崎県雲仙市の老舗旅館の全体改修計画である。
設計対象はロビー、ラウンジ、宴会場、客室、レストラン等、旅館全体に渡った。それぞれの空間は規模も用途も異なるため、既存要素を活用しながら不要なものは省略・単純化し、雲仙らしいインテリアを追求する、ということを統一した設計方針とした。
設計資料を集めていたところ、開業当初の建物の写真を見ることができた。元々雲仙は外国人のための保養地として始まり、建物は洋風であった。また昭和初期頃の絵葉書やポスターも発見でき、それらはシンプルかつ力強いグラフィックであった。ゆやど雲仙新湯の100年以上の歴史性、そしてこの旅館だけが持つ個性を意匠に表現することを念頭に置いた。
雲仙らしさとして、例えばあるレストランでは火山岩を壁に使用したり、この旅館が所有する温泉地獄の風景を積極的に取り込む工夫をした。
大宴会場は元々襖、付柱・付長押のある和風の意匠に、洋風の家具・照明器具を使用した空間だった。壁の和風意匠はそのままに、照明器具と家具を更新して、開業当時のレトロ風なイメージを出す工夫をした。
他、ロビーのレセプションエリアは天井を下げ、その奥のラウンジスペースを伸びやかな空間としたり、家具を少し低めのものを使うなど、設計のアクセントとして高低差を使った。
既存客室は和室の意匠をそのまま活かし、布団使用とベッド使用の2タイプを設計した。いずれも要素の単純化を行ない、ベッドタイプはベッドを置く式台を設けた。